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雑誌 Rural に掲載いただきました。

出版社(株式会社まちなみカントリープレス)の許可を得て掲載しております。
出典:Rural vol.4 2017 winter, p23
 

江戸時代から紆余曲折を経て今に至る長い長い秘湯物語。

 これほどドラマチックな温泉宿があるだろうか。何度もの危機を乗り越え、この宿は春を待つ。

山鳩がここに湧き出る泉で傷を癒しているのを見た地元の農民は、この泉が温泉であることを知る。江戸時代には集落の公衆浴場になり、明治時代には温泉宿としてもスタート、大正時代には現在の位置に離れも作り人々を癒してきた。しかし昭和36年に「北美濃地震」が発生、周辺の集落の人々は里に降り、結果この宿だけが残った。

 この宿を明治時代より営んでいたのは森嶋家。5代目・宏さんはこの家族経営の後継者として若い時分から働いていた。秘湯ブームやトレッキングブームもあり、宿の名は口コミで広まっていた。が、平成25年、宏さんは山菜採りの最中、足を滑らせて不慮の死を遂げる。100年続いた宿は突然閉鎖を余儀なくされたのだ—。

 それから約1年後。大野市に仕事できていた『豊実精工株式会社』代表取締役・今泉由紀雄さんは、20歳の頃を思い出していた。「大野といえば鳩ヶ湯温泉というところに行ったことがある」。とても印象に残っていた宿だったので市役所の職員に尋ねると「もうやっていないんです」と、これまでの事情を聞かされる。思い出の場所がただ朽ち果てていくのを見過ごすことはできない。実は今泉さんだけでなく、街の人も、そして常連だった人たちも復活を願っていた。そこで一念発起、今泉さんは復活を申し出たのだ。ここに「鳩ヶ湯温泉復活」のプロジェクトはスタートする。再開は平成27年春。復旧作業は着実に進んでいた。

 宿のある場所は福井県の中でも豪雪地帯で、国道158号線から宿へと続く道沿いには地震以降誰も住んでおらず、冬期は除雪も入らず雪解けまで閉鎖、ということになる。つまり『鳩ヶ湯温泉』は春から秋の期間限定温泉宿なのである。順調に進んでいた復旧だったが、平成27年の冬、大寒波がやってきてこの一帯に大雪が降り積もった—。

 歴史ある本館は、その重さに耐えられずついに倒壊してしまったのだ。除雪もままならない道、術のない状況、惨状を目の当たりにしてもただ春を待つしかなかった。しかし幸いにも温泉の部分は被害を免れ、平成27年9月にまずは日帰り湯として再び湯の花を咲かせた。

 そして平成28年春になり、宿泊棟である本館の建築がスタート。同年9月1日、『鳩ヶ湯温泉』は再びグランドオープンを果たした。必ず復活させるという人々の執念が結実した瞬間だった。8月のプレオープンの際には復活を待ちわびた人々の歓喜の声が山にこだました。

 今は雪の中、しばし眠りにつく。暖かい来春のオープンを目指して。